三重県松阪市内の基幹3病院は2024年6月1日から、救急車で運ばれたが入院しなかった軽症患者に対して、7700円を徴収することを表明しました。
救急車の利用増加による財政負担が増える中、以前から救急車の有料化を検討すべきとの論議がされていましたが、日本ではまだ全国的に救急車の有料化は開始されていません。
しかし今回、三重県松阪市が有料化制度を開始することになりました。
この導入の背景として、救急出動件数が増加し、救急医療体制が逼迫する懸念があり、軽症者による救急車の利用を抑制する狙いがあるようです。
「7700円」、安くもないければ、高くもないこの絶妙な金額…。
このくらいの金額でブーブー言いたくない気持ちと、昨今の物価高の中で7700円の出費は痛い気持ちも分かります。
有料化に伴い、松坂市民からは賛否の声が上がっているようです。
筆者の住む自治体ではまだ救急車は無料ですが、どうなるのかやはり気になるところです。
そこで、今回は松阪市のケースを元に救急車の有料化のメリット、デメリットについて、このまま全国的に有料化が進むのかについて、詳しく調べてみました。
三重県松阪市内の基幹3病院で救急車を有料化
三重県松阪市内の基幹3病院は2024年6月1日から、救急車で運ばれたが入院しなかった軽症患者に対して、7700円を徴収することを表明しました。
基幹3病院とは、松阪市の済生会松阪総合病院、松阪中央総合病院、松阪市民病院です。
・軽症患者からは、紹介状なしで受診した場合に請求する「選定療養費」として7700円を徴収する
・学校での熱中症や交通事故などは徴収されない
「選定療養費」とは、地域の医院・診療所と、救急患者を受け入れる地域医療支援病院(200床以上)の機能分担を推進する法令に基づいて徴収するものです。
同様の取り組みは伊勢赤十字病院(伊勢市)で2008年から行われていますが、地域の基幹病院が足並みをそろえて徴収するのは全国的に珍しいそうです!
有料化導入の背景
松阪市が2022年4~6月に行った調査では、3病院に救急搬送された患者で入院した人の割合は、以下の通りです。
- 平日の昼間:50.6%
- 休日&夜間:37.1%
一方、松阪市と多気、明和町の1市2町(人口は計約19万5000人)をカバーする松阪地区広域消防組合(職員数275人)の救急車の出動件数は以下の通りです。
- 2004年:7945件
- 2022年:1万5539件
- 2023年:1万6180件
- 1日50日件以上の出動が年間90日を超える
- 出動した救急隊が搬送を終えて戻ってきても5分とたたずに再出動することがある
- 救急車の出動件数は2年連続で過去最多を更新
松阪市はすでに救急医療体制は限界に近く、このまま増加ペースが続けば救急の現場はパンクしてしまうという懸念がありました。更に、救急車の出動件数が増えることで、到着時間に遅れ応急処置への影響も懸念されます。
総務省消防庁によると、通報を受けて救急車が現場に到着するまでの平均所要時間は、この10年で約4分も遅くなっています。
- 2002年:6分18秒
- 2022年:10分18秒
心肺停止後、10分を超えると生存率は下がると言われているので、深刻な問題です。
選定療養費(7700円)を徴収するのは、軽症者は家族が運転する車やで病院に向かってもらい、医療従事者の負担を軽減したいため
松阪市民や周りの反応は?
今回の「救急車の有料化」について、松阪市民の受け止めは様々で賛否両論が上がっています。
肺炎で救急車を利用したことがあるという会社員男性(33)は「有料だったとしても、救急車を呼んでいたと思う」と話した。一方、無職女性(53)は「軽症か重症か、本人や家族には分からない。7700円は高額で、救急車を呼びにくくなる」と語った。
読売新聞オンライン
救急車で病院に運ばれた後、入院しなかった軽症患者から「選定療養費」として7700円を徴収する方針を松阪市が表明したことについて、市への問い合わせは160件を超えたそうです。
内訳は以下の通りです。
- 市内外の一般人からの電話&メール:92件
- 県外の行政や消防:30件
- マスコミ関係者:40件
やはり、市民の方が関心を寄せていることが分かりますね。
救急車の適正利用を巡っては、全国的に関心が高まっており、様々な意見が寄せられているようです。
今回の松阪市のケースがモデルケースとして、定着することで今後、全国的に救急車が有料化になる可能性も出てきそうです。
では、続いて救急車が有料化になるメリットとデメリットについてそれぞれ分かりやすく解説していきたいと思います。
救急車が有料化になるメリットは何?
海外では救急車は有料という国も多いですが、日本の消防救急車は無料で手配できます。
無料で呼べるがゆえに、自分で病院に行けるような軽症者でも安易に利用するケースが後を絶たず、海外諸国のように有料化したほうが良いのではないかという声も挙がり始めているのも事実です。
日本で救急車が有料化されたらどうなるのか、メリットとデメリットを分かりやすく解説します!
救急車を有料化するメリットについて3つご紹介します。
メリット①無駄な救急車の出動を減らせる
まず1つ目は、救急車を有料化することで、多くの人が救急車を呼ぶことに慎重になることが予想されるため、安易な出動要請を減らすことに繋がります。
無駄な出動が減ることで、過重労働になりがちな救急医療の現場で働くスタッフの負担を軽減でき、人材不足の解消も期待できるでしょう。
メリット②重症患者の搬送がスムーズになる
本来救急車は、重症患者を迅速に病院へ搬送することを目的としています。
しかし、軽症者による安易な利用が増えることで、本当に必要な人が、必要なときに利用できないケースもあり、重症患者の搬送に支障をきたしているのが現状です。
救急車の有料化によって安易に利用する人が減ることで、重症患者の搬送がスムーズになり、助かる命が増えるというメリットがあります。
メリット③消防関連費の削減
年々、救急車の出動件数が増えており、国の費用負担が増加しています。
救急車を有料化すれば税金で賄う必要が少なくなるため、節税対策にも繋がり、消防関連費の予算を他のことに回せるようになります。
救急車の有料化にはデメリットもある
救急車の有料化には、必ずしもメリットだけではありません。
デメリット①重症者であってもお金がないと呼びたくても呼べない
救急車が有料になることで、重症者であってもお金がないと呼ぶことができず、呼びたくても呼べない人が増える可能性があります。
そのため、救急車で搬送すれば救えたはずの命が救えなかったり、病院への到着が遅れたがゆえに重症化して、医療費の負担が増えてしまうリスクが懸念されています。
デメリット②お金に余裕がある人は重症でなくても呼ぶ
また、救急車を有料化しても、お金に余裕がある人の安易な利用は減らない可能性も示唆されています。
お金を支払っているという意識から、救急車をタクシーのように呼んだり、横暴な態度をとる人が増えるなど、救急医療の現場で働くスタッフの負担が逆に増加する可能性もあるのです。
救急車の出動にかかる費用はどのくらい?
現在、無料で利用できる救急車のその費用はどこから捻出されているのでしょうか?
救急車の財源は税金
救急車は、国からの交付金、地方自治体からの補助金などが財源です。
税金を使って救急車の購入やメンテナンス、ガソリン代、救急車に載せる医療機器や物品の購入などを賄っています。
日本の消防救急車は、無料で要請できることが法律で定められており、その出動費用はすべて税金で賄われるため、無料で救急車を呼ぶことができるのです。
救急車を無料で手配できる対象は、日本にいるすべての人です。人種や国籍はもちろん、納税の有無も関係なく、観光などで日本にやってきた外国人も無料で救急車を呼ぶことができます。
1回の出動で約40,000〜45,000円がかかります。
筆者も人生で2回救急車に乗って搬送してもらったことがありますが、1回の出動でそんなにかかっていたとは驚きます。
【令和4年度のケース】
救急出動件数:約720万件
出動費用:3000億円以上
しかし!
病院へ搬送された方のうち、45%が軽症でした。
適正に利用するだけで、1000億円以上の節約ができることになります。
出動できる救急隊員と救急車の数には限りがあるため、必要ではない方が多く利用すると、本当に必要な方の元へ到着するのに時間がかかってしまいます。
実際、救急車を要請してから現場に到着するまでの時間も、年々長くなっています。
いざ、自分の大切な家族や恋人が救急搬送を必要としている最中、なかなか救急車が来ないと想像するだけで、ヤキモキして胸がキュッとしますね。
救急車は、1人1人が適切なタイミングで利用することが大切ですね!
松阪市の実例が引き金になり、全国的に救急車の有料化について検討の議論が活発化されることも充分に考えられそうです。
有料化に伴うメリット・デメリットについて充分に考慮して、私たちも当事者意識を持つことが求められそうです!
海外では救急車の有料が一般的である!
日本以外にもイタリア(ローマ)や香港なども無料ですが、無料という国というのは珍しく、ほとんどの国が有料です。 欧米の大半の国は、救急車は有料なのが一般的のようです。
・ニューヨーク…50,000円
・バンクーバー…60,000円
・ミュンヘン…67,000円
・ゴールドコースト…90,000円
・パリ…重症者は0円、それ以外は34,000円
・シンガポール…非救急の場合のみ有料
・ローマ…0円
・ロンドン…0円(軽症の場合や不適正な利用と判断された場合には、費用の負担があり)
・台湾…0円(軽症の場合や不適正な利用と判断された場合には、費用の負担があり)
※財務省資料および旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」などより抜粋
アメリカを例にみてみましょう。
アメリカでは、消防局などが運営する公的な救急車のほかに、民間の救急車も活用されています。
- 公的な救急車:基本料金は8万円〜15万円。走行距離や、酸素の使用により追加料金が加算されていくシステム
- 民間の救急車:基本料金は3万円。緊急走行ができない
また、ニューヨーク州では基本料金の5万円に加え、タクシーのように走行距離や利用時間に応じてプラス料金が加わるシステムや軽症の場合は料金を請求させるシステムもあるようです。
筆者もオーストラリア(ゴールドコースト)に留学中は、救急車が有料だったので怪我や病気に気をつけました。
救急車を呼ぶべきか迷った時は…
「救急車を呼ぶべき状況の時だけ要請する」という救急車の適正利用が課題であることが分かってきました。
では、実際に救急車を呼ぶべきタイミングに迷った際はどうしたら良いでしょうか?
#7119は医師、看護師、トレーニングを受けた相談員へ症状の緊急性などを相談できる「救急安心センター事業」の番号です。
緊急性が高いと判断された場合は救急出動につないでもらうことができます。
緊急性が高くないと判断された場合は、受診可能な医療機関の案内や、どんな症状が出たら受診する・救急要請するなどのタイミングについてのアドバイスをもらうことができます。
まとめ
今回は松阪市のケースを元に救急車の有料化のメリット、デメリットについて、このまま全国的に有料化が進むのかについて、詳しく調べてみました。
松阪市の対応については現在、全国的に抱える救急車の出動件数を減らす苦肉の策として、実行されたケーススタディとなりそうです。
行政側は市民へ有料化への理解を深める取り組みを進めたり、救急車を呼ぶべきかどうか迷った時の相談体制を充実させることが求められているでしょう。同時に、私たち市民もどこかよその自治体での出来事と捉えずに、当事者意識を持つことが大切ですね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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